東京都教育委員会は都内の公立中学校の3年生全員を対象に、英語を話す能力を測るスピーキングテストを11月27日に実施する。テスト結果については授業改善に役立てるほか、2023年度の都立高校入試に反映させる方針だが、市民グループが都教委に公開質問状を提出するなど否定的な意見が少なくない。また、テストの中止や入試への利用をやめるよう求める声は教員の間からも上がっている。
経済格差・地域格差が広がることへの懸念
学習指導要領は英語4技能として「聞く」「読む」「書く」「話す」を定めている。この英語4技能を用いた言語活動の授業の実施割合は、小学校:91%、中学校:71%、高校:50%と学年が上がるにつれて減少傾向にある。この実情を文部科学省は重く受け止め、コミュニケーション能力の育成・向上を英語教育の目標として、改めて言語活動の改善や充実を図っていく。
その一環として、今年(2022年)の11月27日にスピーキングテストが実施される。英語4技能のうちの「話す」力を測る目的で行われる。テストの結果は学校や市区町村にも伝えられるため、授業方針の改善への活用も期待されている。2019年以降計3回のプレテストが行われ、いずれも大きな問題はなかったものの、スピーキングテストの本格導入については否定的意見が少なくないのが現状だ。
今後学習塾が専門の対策講座を開くことも十分に考えられるため、塾に通える生徒が有利になってくる。つまり、経済状況や居住地による格差が生まれかねない。元々英語のスピーキング教育に対する力の入れ方は自治体によってかなり差があったため、その差がさらに広がることを懸念する声が現場の英語教員から多く上がっているのだ。
採点の公平性について
都教委によると、スピーキングテストの採点はフィリピンで行われるとのこと。採点者の人数などの詳細は非公開だが、非英語話者に英語を教えるための学問領域「TESOL(テソル)」を習得するなど、全員が一定水準以上の技量を持っているとしている。公平な採点ができる態勢を整えてはいるようだが、海外の担当者が顔も知らない生徒の音声を採点することについては疑いの目も向けられている。
高校入試への利用は他県で頓挫の実例もあり
スピーキングテストの採点結果にはA~Fの6ランクが付与され、2023年度都立高校入試にも利用される予定だ。学力検査の得点(700点満点)と調査書点(300点満点)に加え、Aランクでは調査書に20点が記載され、総合得点は1020点満点となる。
実は東京よりも先に、スピーキングテストを公立高校入試に取り入れた先例が岩手県にある。2004年度から対面方式でのスピーキングテストを入試の際に実施したが、日程が2日間に渡るなど、受験生の負担が大きいことが理由で2006年度に廃止された。
導入反対派の市民団体「入試改革を考える会」は、5月17日に採点方式の妥当性などに疑問を唱える公開質問状を都教委に提出した。武蔵大学の教授を務めている代表の大内裕和氏は、英語4技能のうち最も評価が難しい「話す」力は入試との親和性が低いことを指摘している。
また、スピーキングテストの結果が通知されるのは来年1月中旬頃。入試は2月下旬に実施されるのが通例であるため、逆算しておおよそ年末までには志望校を絞り込んでおくことが一般的だ。しかしスピーキングテストの結果次第では、志望校変更を視野に入れることも必要になってくる。生徒の心理的負担を懸念する声も、学校現場の教員からは不安要素として上がっている。
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